【純音聴力検査シリーズ・第5回】純音聴力検査を見直す|患者とのコミュニケーション
前回のコラムでは、正確な検査を支える「検査環境」についてお話ししました。
今回は、第5回として、「患者とのコミュニケーション」についてお話しします。
業務に追われていると、患者さんとの会話に時間をとることはなかなか難しいですが、最低限の会話で必要な情報を聞き出すだけでも検査をスムーズに行えたり、各聴覚検査の乖離などにも気付きやすくなります。
患者さんへの説明や声かけは、検査精度に直結する重要な検査技術といえます。
今回のコラムで押さえていただきたいポイントは、次の3つです。
・応答の確実性を高める検査説明
・事前に知っておきたい患者情報
・応答が不安定なら声掛けを早めに
- 応答の確実性を高める検査説明 -
まず、患者さんとのコミュニケーションとして最初に行うのが検査説明です。
ここで大切なのは、患者さんが落ち着いて検査を受けられる、かつ一定の基準で応答できる状態をつくることです。
多くの患者さんは、検査に対してネガティブな印象を持っています。
私自身、「この検査嫌いなんだよね!」と何度も言われたことがありますが、単純に面倒くさかったり、緊張したり、検査そのものに不安に感じるなど、なるべく受けたくないという方が多いです。(私も好きではないです…。笑)
そういったネガティブな感情をなるべく緩和できるように、「どんな検査か」、「どんな音が聞こえるか」、「どのように応答するか」など、検査の目的や重要性・内容などを具体的に伝えることが大切です。
すべての患者さんへ丁寧に説明する必要はなく、初めて検査を受ける方や緊張や不安が強そうな方などには、上記の内容を伝えるだけでも応答が安定することがありますので、臨機応変に説明内容を変えたり、追加したりするとよいと思います。
私たちにとっては日常的な検査でも、患者さんにとっては慣れない検査ですので、この前提を忘れずに患者さんに対応することが大切です。
- 検査前に知っておきたい患者情報 -
正確な検査を行うためには、医師の所見と患者さんから得る情報も重要です。
聴力検査では、患者さんの主訴と患側が逆だったり、難聴の自覚がないのに閾値上昇が顕著であったり、突然聞こえが悪くなったという経過の方が伝音難聴であったりなど、急に思いがけない状況や結果になることは少なくありません。
そういったときに、事前情報があると慎重になるべきポイントがわかるので、焦らずに落ち着いて検査を進めることができたり、検査の間違いに早い段階で気付き、対応できることがあります。
検査精度の観点からも、カルテの確認や患者さんとのコミュニケーションは可能な限り行うことをおすすめします。
次のような情報は、ぜひ事前に確認していただきたいです。
・耳科疾患の既往歴
・難聴以外の蝸牛症状
・難聴のオンセット・経過
・左右差の自覚
・過去の聴力検査結果
たとえば、「耳内所見正常」「難聴のオンセットがはっきりしない」、「左右差の自覚が乏しい」、「数年前から片耳のみ低音域が健診でひっかかっていた」といった情報がカルテや患者さんから得られた場合に、緩徐に進行する一側性の難聴(耳硬化症や聴神経腫瘍など)と推測できます。
このときに、疾患を鑑別するために気導閾値の形や、骨導閾値の手技をとくに慎重に行う、など、検査中に気を付けるポイントを前もって押さえることができます。
予想外の結果になった場合は、事前情報と結果の整合性や検査不備がなかったかを再確認することで、誤った結果報告を未然に防ぐことができ、。
ただし、事前情報を得ると、先入観を持って検査に臨んでしまったり、診断に関わる内容を良かれと思って患者さんへ伝えてしまうことには注意しなければなりません。
「鼓膜穿孔があるから必ず伝音難聴になる」、「突然聞こえなくなったから突発性難聴(感音難聴になる)だろう」というような先入観をもって検査を行うと、予想に結果を寄せてしまうことにつながります。
また、診断をするのは医師ですので、知識があるがゆえにそれに近いことを患者さんに伝えたりすることも絶対にしてはいけません。
事前情報はあくまでも情報です。
正確なオージオグラムは精確な手技でしか得られませんので、予想と反した結果になっても、推測に近付けるための手技変更は絶対にしないようにしましょう。
- 応答が不安定なら声掛けを早めに -
患者さんの応答が不安定、明らかに検査方法を誤解している、疲労や緊張が強そうなどといった場合には、早めに患者さんへ必要な声掛けを行うことで、応答の確実性が上がり、検査時間を短縮することができます。
「音が鳴っていないときに何度もボタンを押している」、「応答までの時間が極端に早い・遅い」、「首をかしげたり、常に眉間にしわが寄っている」などというような応答の確実性が疑われる状況では、早い段階で一旦検査を中断し、検査のどこでつまづいているかを患者さんの応答の様子や表情をみながら推測します。
たとえば、「音が鳴っていないときに何度もボタンを押している」という場合は、耳鳴や残音(検査音の余韻が残っている感覚)などが原因として考えられるので、耳鳴と検査音が区別できない、もしくは聞こえる気がするというように曖昧だったり悩ましいときは無理に応答しない、などを再度説明します。
応答が不安定になっている原因に対処するよう説明をしますが、最終的には「かすかにでも聞こえたら応答する」ということをしっかり伝えましょう。
患者さんの中には、繰り返しの説明を受けると逆に不安に感じてしまい「聞こえるけど自信がないからボタンは押さない」となってしまう方もいます。
一通り検査方法や応答方法を再確認した後に、もう一度「かすかにでも聞こえたら(なるべく早く)ボタンを押してくださいね」と念押しで伝えると勘違いされにくくなります。
検査者のなかには、検査中の声掛けを躊躇う方もいるかもしれませんが、そのまま検査を進めるとかえって時間がかかり、最終的に患者さんに不信感を与えかねません。
優先すべきは「患者さんへ正しい医療を届けるための検査を行う」ことですので、患者さんの応答について「おかしいな」と思ったら早めに声掛けをすることを意識しましょう。
今回のコラムで、検査時における患者さんとのコミュニケーションは、検査精度に関わってくる重要なスキルの1つであることをお伝えしました。
患者さんと適切な会話のやりとりを行うと、検査に協力的になったり、応答が正確になったりとメリットが多いです。
また、そこで得られた情報は、検査の信頼性を判断する材料になり得たり、診断に役立ったりすることもありますので、その際は医師へ報告するようにしましょう。
次回は、純音聴力検査で「見落としやすいポイント」について取り上げます。
日常的に行う検査だからこそ、慣れの中で見逃しやすい点があります。
検査精度を下げる原因になりやすいポイントを、現場目線で整理していきます。
聴覚医療の質と信頼を、共に築く。
聴覚検査の精度や検査体制についてお悩みの際は、まずはお気軽にご相談ください。
Oto Lab.はこれからも、聴覚医療に携わる皆さまを支援してまいります。