【純音聴力検査シリーズ・第3回】純音聴力検査を見直す|患者観察の視点
前回のコラムでは、純音聴力検査は「心理物理学的な仕事」を求められる検査であることをお伝えしました。
今回は、第3回として、「純音聴力検査における患者観察の視点」についてお話しします。
主観的検査の信頼性を確保するうえで、検査中の患者さんの様子は重要な情報となります。
今回押さえたいポイントは、次の4つです。
・応答の仕方
・応答のばらつき
・表情やしぐさ
・会話の様子と検査結果の乖離
純音聴力検査は、検査者がオージオメーターをただ操作するだけでは正確な検査結果を得ることはできません。
応答のプロセスや、表情・しぐさ・会話の様子から、患者さんの心の機微に気付く力も大切です。
- 応答の仕方を見る -
まず確認したいのは、患者さんがどのように応答をしているかです。
一般的に「音が聞こえている間はボタンを押し続け、聞こえなくなったら離す」という応答方法が推奨されており、応答の確かさは、ボタンを押す(ON)と離す(OFF)がセットで行えているかを確認することが重要となります。
検査者は、患者さんが音の提示中にボタンを押し続けられたかを確認できたとき、初めて応答が確かであったと判断できます。
・検査音を提示した際に「押す(ON)」は確認できても、無音にした際の「離す(OFF)」が確認できない。
・音を提示する前(まだ音を提示していない)にボタンを押してしまっている。
このように応答のON/OFFがセットで確認できない、つまり、音の提示と応答の不一致が見られた場合は、誤応答と判断します。
誤応答の確認には、わざと無音の状況(検査音を提示していない時間)をつくったり、検査音をしばらく提示して応答し続けられるか、というような手技を挟むことも有効です。
少し意地悪ですが、誤応答を早く検出し、少なくするためにはこういった「駆け引き」も必要となってきます。
検査に不慣れだったり、手技に慣れ始めて気が緩んでしまっていると、早く検査を進めようと、どんどん検査音を提示してしまい、応答の「離す(OFF)」の確認や駆け引きを省略してしまいがちです。
検査中に一度立ち止まって応答の確かさを確認したほうが、むしろ検査を早く進められることにもつながりますので、意識しながら検査を行ってみてください。
- 応答のばらつきを見る -
つぎに、検査音を提示、または無音にしてから患者さんが応答(ON/OFF)するまでの時間を確認します。
この、時間のばらつきも応答の正確性を判断する材料として重要となります。
応答時間の観察は、ラウドネス(ヒトが実際に感じる感覚的な音の大きさ)について理解し、ポイントを把握しておくと、ばらつきを検出しやすくなります。
ヒトは中高音域(1k~5kHzあたり)が他の周波数帯に比べて聞き取りやすいと言われています。
そのため、中高音域では比較的明瞭な応答が得られやすく(耳鳴がある方は除く)、それよりも低音もしくは、高音になるにしたがって、若干ではありますが応答が遅れやすいです。
また、補充現象が陽性の場合では、健聴耳に比べてラウドネスが急激に変化するため、閾値付近でも素早い応答が得られることがあります。(高音域のほうが補充現象としての感度は高い傾向にあると言われています。)
このような特性を理解しておくと、応答が早すぎる、または遅すぎるというようなばらつきを検出しやすく、応答が確かであるかを確認しやすくなります。
安定して検査ができている患者さんは、応答にある程度の一貫性が認められます。
その中で応答までの時間に大きなばらつきがある場合は、必要に応じて患者さんに声かけを行ったり、より慎重な手技と閾値決定を心がける必要があります。
- 患者さんの様子を見る -
患者さんの表情や姿勢、しぐさを観察し、緊張や不安などの心の機微を察することも重要なポイントです。
・患者さんが眉間にしわを寄せている。
・体が前のめりになっている。
・首をかしげながらボタンを押している。
・途中から明らかに反応が遅くなっている。
・何度も検査者の方を見る。
このような仕草がある場合、患者さんは緊張したり、迷いながら検査を受けている可能性があります。
こういった仕草に気付いた時点で必要な声かけを行い、一人一人に適した閾値測定の進め方や応答方法を選択することも、検査技術の1つと言えます。
検査室の関係で患者さんの観察を行えない状況もあるかと思います。
覗き窓から定期的に観察したり、応答が不安定だと感じたら早めに声を掛けて安心させるなどのひと工夫で、応答の妥当性を判断しやすくなることもあります。
(凝視しずぎると逆に怖がられてしまうので、応答が怪しいなと思ったら少し様子をみる程度がよいと思います。)
- 会話の様子と検査結果に乖離がないか -
最後に、会話の様子と得られたオージオグラムの比較も重要です。
これは応答の確かさの確認や、オージオグラム自体の妥当性を判断する情報となります。
たとえば、検査前の会話では小さめの声でもスムーズにやり取りできていたにもかかわらず、中等度から高度難聴のような結果になっている場合や、反対に、会話ではかなり聞き返しが多いのに、比較的良好な閾値が得られている場合など、会話の様子と純音聴力閾値に乖離がみられることがあります。
このようなときは、検査結果をそのまま受け取るのではなく、なぜ乖離があるのかを考える必要があります。
検査の理解不足や集中力の低下、機器装着の不備、コードの接触不良、語音明瞭度の低下、機能性難聴などの疾患の特徴など、何が原因でそのような結果が得られているかを検査中から考えられれば、検査の二度手間を防げたり、次の対応をスムーズに行えるようになります。
以上が検査における患者観察の視点のポイントです。
検査中に「なにか怪しいな」というような違和感にどれだけ早く気付き、次の対応に移れるかで、検査の正確性や検査時間が大きく変わります。
ぜひ頭の片隅に置きながら検査に取り組んでみてください。
次回は、正確な純音聴力検査を支える「検査環境」についてお話しします。
防音室、検査機器、校正、日常点検など、検査結果の信頼性を守るために確認したいポイントを取り上げます。
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